私は旅に出た。
そこで見つけた愛のひとつ。


《クリュニー美術館//貴婦人と一角獣》 

セーヌ川の左岸、中世の建造物が今も残るサンジェルマン・デ・プレの辺りにあるクリュニー美術館。その中でも特に名高い所蔵品が、6枚の連作からなるタピスリー《貴婦人と一角獣》だ。タピスリーはおよそ1484~1500年頃の物と言われている。もともとはブサック城というお城にあった。中世では防寒を兼ねてタピスリーは壁に飾られていたという。

この日はそのタピスリーに会いに向かった。私が行く前に想像していたものを遥かに上回る、衝撃的な出会いだった。ぐるっと6枚のタピスリーだけに囲まれた部屋。6枚のタピスリーにはすべて千花模様(ミルフルール)を背景に貴婦人と一角獣が描かれている。あまりにも美しい。鮮やかな色や文様、貴婦人や動物達の甘く、寂しく、問いかける表情。一体どれほど熱心に、どれほどの時間をかけて織り上げたのだろう。どんな思いがこれを織らせた者にあったのだろう。時間が許すならもっともっとずっと居たかった。本当に、こんなにも豊かに、素晴らしく想像を掻き立ててくれるものがあるのかと。自分の中に物語が溢れ出す。涙すら滲む。不思議な没入感だった。
 

調べれば調べるほどにわかるのだが、このタピスリーに関しては、どういう意図で作られたか?注文主は誰か?どこで作られたか?誰が保有していたのかも解釈がバラバラである。
長い年月研究がされ、5枚のタピスリーについては研究者の間でも意見は一致している。人間の五感を表しているものだということ。「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」の寓意。そして6枚目のタピスリーだけが未だに謎のままだ。「我が唯一の望み」という文字の織り込まれたタピスリー。

あなたはどんな風に感じるだろう?


《触覚》

貴婦人は立って自ら旗を掲げていて、片手はユニコーンの角に触れている。まるで全てを統制しているような凛々しい貴婦人の姿と、それに従うかのようなユニコーンとライオンの静かな表情。周りの動物達も首輪をしていたり何かに繋がれているものが多い。

《味覚》

1番華々しさを感じた。貴婦人の表情も明るい。味覚で何かを味わうことは単純に生命力に繋がっているからだろうか?ユニコーンもライオンも前足を上げていて、活発だ。周りの小動物も味覚を満たそうと、今集まってきたかのようだ。

《嗅覚》

花を編む貴婦人がいる。物憂げな表情で。それを優しく見守るユニコーンとライオン。侍女もじっと待つ。編んでいる花のカーネーションやオレンジの木の花の香りが漂う。周りの小動物たちも花々の香りにハッと気付いたような表情だ。

《聴覚》

貴婦人はパイプオルガンを弾いている。侍女はふいごを操作する。音楽が鳴っているというのに、楽しくは無い。誰の顔も浮かない表情。ユニコーンもライオンも体はそっぽを向いている。

《視覚》

ユニコーンは貴婦人に前足をかけ、甘えた表情を見せる。貴婦人が手にしているのは鏡。ユニコーンを映し出している。貴婦人の表情は読み取れない。ユニコーンを見ている様で見ていない。心が此処にあらず。ライオンも心は此処に無く、外に何かを見つけたみたいだ。

《我が唯一の望み》

貴婦人の首元を飾る美しい宝飾がない。それを手にしているからだ。侍女が持つ箱の中から首飾りを受け取ろうとしているのか、それとも仕舞おうとしているのか。それによって解釈が全く違ってくる。あなたにはどう望んでいるように見えるだろう。

「我が唯一の望み」



貴婦人は、 深深と、誰かをずっと待っている。

 

動物たちはいつも貴婦人の近くにいて、見守り、おどけて励ます。
花々は舞い踊ってみせる。

あの人だけが、いない―

 

誰かのために花を編む貴婦人がいる。
あるいは誰かを想う自分のために編んでいるのか。表情は悲しく俯く。
この香りを届けてほしいと切に願う。

音楽がむなしく響く。周りの様子も不安げだ。
動物や侍女は知っているからだ。
あの人に届かない音。

見る、というのは怖い。
どんな人もあの人に見えるし、どんなものもあの人を連想させる。
貴婦人は何を見ている?

ただ、最後に、希望の様にそれはある。
「我が唯一の望み」
私はもう決心していた。
私のゆく先は・・・
私の望みは・・・


┈┈•••┈┈┈┈•••┈┈┈┈•••┈┈┈┈•••┈┈┈┈

・オレンジ
・マンダリンレッド 
・プチグレン  
(豊かな愛の実り、芳しいオレンジの花の香り)

・ミモザ(たえずあなたを想う)
・ジャスミン(様々な二面性)
・マートルレッド(純潔の花嫁)
・ローレルリーフ(永遠の愛を誓う)
・フランキンセンス(神聖な祈り)
・バニラ(愛の苦味)

┈┈•••┈┈┈┈•••┈┈┈┈•••┈┈┈┈•••┈┈┈┈

※最後に、「我が唯一の望み」の多様な解釈を載せたいと思う。
・貴婦人がネックレスを小箱にしまっているのは、他の五感によって起こされた情熱を、自由意志によって放棄・断念することを示している
・中世ヨーロッパでは五感は動物と共通した低次元 の感覚だとされていた。貴婦人は身に着けていた装飾品を箱に封印することで快楽享楽を抑え込む強い意志を表す。 
・人間と動物たちとの相違の一つである「物欲」 

・ 愛や処女性、これから結婚に入ることを示している 
・一角獣はタペストリーの送り主である男性を意味しており、一角獣を手懐ける貴婦人の図というのは、自分が愛する女性への忠誠を誓っている「あなたよりほかに、何も望みません」
・トルコからフランスに亡命してきた皇子が、心を寄せるフランス女性に送ろうと作らせた品